原田マハ小説の舞台裏!!『フーテンのマハ』

『フーテンのマハ』原田 マハ, 集英社文庫


 美術小説で人気の原田マハさんの原点は,女子ふたり旅『ぼよグル』だった!?

 マハさんは常に色々な所を巡っているとのこと.『ぼよグル』これは友人との二人温泉グルメ旅から始まり,後にテーマを決めて各地を巡るというもの.そのエッセイ集です.初出は『小説すばる』の連載.

 青森で「あっつあつの焼きそば」を食べたり,鳥取「カニ」を食べたり,牡蠣にあたったり,ナポリで「ナポリタン」を食べたりするお話(別名取材旅行エッセイ)! そんな生活のルーツは最終篇『フーテン旅よ、永遠に』で亡き父との思い出で語られます.

 なので本書は,旅のお供として,あるいは通勤通学途中の車中などで読むのが最適だと思います.「マハさんの小説のあの話はこんなエピソードから生まれたのか」とか「これってもしかして小説のあの部分のことじゃないかな」となかなか楽しめます.原田マハさんの小説の舞台裏を見ているようなそんな感じ.

挿絵も原田マハさんなので,そこも見所.


チョコレート・ガールを追え.私小説を再定義!?吉田篤弘『チョコレート・ガール探偵譚』

『チョコレート・ガール探偵譚』吉田 篤弘


 クラフト・エヴィング商會の吉田さんの『月とコーヒー』,『フィンガーボールの話のつづき』につづく片手で持って読める小さな本シリーズのひとつ.ハードカバーなのに片手で読めて,外出時にカバンに入れて行きたくなる大きさなんです.

 古書店で手に入れたパンフの『チョコレート・ガール』の文字に引かれた「私」.それは昭和7年のサイレント映画のパンフだった.そのフィルムはすでに失われ,主演女優の水久保澄子,原作小説/脚本!?の『チョコレート・ガール』もその行方は定かでは無い.「私」はその『チョコレート・ガール』を追い求めていくのだが…

 主人公「私」は吉田篤弘さんで,事実関係もほぼノンフィクションなのだが,これはもう小説です.本書はあきらかにエッセイでは無いので,私小説を再定義したジャンルなのかもしれません.『木挽丁月光夜咄』もそんな感じでしたが,本書で新しいジャンルを確立した感があります.

 発端となったパンフ!?が本書の奥付の次のページに載っているのも嬉しい.


毎晩一篇ずつ読みたくなる『月とコーヒー』吉田 篤弘

『月とコーヒー』吉田篤弘.徳間書店

 クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘の小さな本シリーズ(?)の一冊.とある世界でおこるおかしな話の短篇小説集. 装幀 クラフト・エヴィング商會.

 各篇がほぼ原稿用紙十枚程度のショートショートなのが良いですね.本書の世界の人間模様をチョット覗いてみた感じが良いですね.書名に『月』とあるように,夜ちょっと読むのがお勧め.私は一気読みせずに,就寝前に時々一篇ずつ読みました.そういう感じに読みたいお話ですね.
 ハードカバーなんですが,片手で持って読めるので外出時に持って出るのも良いかも.

 どのお話もその後がどうなったかなど気になります.『青いインク』のお話のように連作短篇になっているものもあります.作者もその後が気になったのかな.

 目次を見ただけで,どんなお話なのかワクワクしますよね

目次
・甘くないケーキ
・映写技師の夕食
・黒豆を数える二人の男
・アーノルドのいない夜
・白い星と眠る人の彫刻
・隣のごちそう
・ジョーカーのサンドイッチ
・青いインク
・ミヤンザワ・キートン
・カマンザの朝食
・バナナ会議
・世界の果てのコインランドリー
・鳴らないオルゴール
・空から落ちてきた男
・美しい星に還る人
・青いインクの話のつづき
・熊の父親
・つづきはまた明日
・三人の年老いた泥棒
・冬の少年
・セーターの袖の小さな穴
・二階の虎の絵
・マーちゃんの眼鏡
・ヒイラギの青空
・あとがき


コーディアル が気になる『ぶたぶたのティータイム』矢崎 存美

ぶたぶたのティータイム 矢崎存美 光文社文庫


 矢崎存美の人気シリーズ『ぶたぶた』さんの2019年夏巻が本書.

 ティータイムということでカフェ,レストラン系統のぶたぶたさんです.カフェ/レストラン系は良いですよね.美味しそうな食べ物飲み物が出てくるところが好きです.連作短編集で気軽に読めます.この設定のぶたぶたさんはまた時々続編を出して欲しいなぁ.

 本書を読むこと自体が,カフェでスコーンと紅茶を頂きながら本を読んでいる感じです.良いね!

 ちなみに気になったのは『コーディアル』.ハーブコーディアルはハーブなどから作るシロップなんだそう.沸騰したお湯にハーブを入煮て蒸らした後取り除き,砂糖/はちみつを入れて煮込み,レモン水などを加えて作るのが基本のようです.割って飲んだり,お菓子や料理に使ったり,シロップとして使うらしい.

 『コーディアル』なんか聞き覚えがあると思ったら,ファイナルファンタジー XIV のアイテムでした.オレンジ色の透き通った飲み物で,ローズマリー,トリリウム(エイレン草),アロエ,アプリコットから作ります.園芸や採掘作業中に飲むと元気になるんですが,作り方見るとそれっぽいですよね.


沖縄をウチナンチュの手に取り戻せ!真藤順丈『宝島』

『宝島』真藤 順丈.講談社.

 戦後の沖縄を疾走する若者を描くエンタメ小説が,第160回直木賞を受賞した真藤順丈『宝島』です.

 舞台は米軍統治下の沖縄.戦後間も無く基地の米兵の横暴に犯され殺され泣きを見るウチナンチュ(沖縄人).米軍基地を襲い略奪する若者(戦果アギヤー)たち.
 コザの戦果アギヤーの英雄(リーダー)のオンちゃんは,その連れグスク,ヤマコ,レイを残し,キャンプ・カデナ襲撃事件の中で行方知らずとなってしまう.
 グスク,ヤマコ,レイは警察官,教員,ヤクザとなり,それぞれの方法でオンちゃんを探し沖縄をウチナンチュの手に取り戻そうとするが…

 戦後,ウチナンチュは米軍統治や,米国におもね裏に暗躍するヤマトウ(本土人)に 理不尽な生き方を押し付けられ翻弄される.沖縄返還までの20年間,実在の人物や実際に起きた事件を背景に,その時代を疾走する若者たちを描くエンタメ冒険小説が『宝島』です.

 エンタメ冒険小説なんですが,
・宮森小学校米軍機墜落事故 ーー 死者17人(小学生11人、住民6人)
・糸満轢殺事件
・コザ騒動
などなど,実際の事件が基となっているために,後半読み進めるのが辛くなる場面もあります.ヤマコは教員として米軍機墜落事故に遭遇し目の前で教え子を失う.本書の最後の締めかたは多少御都合主義的な気もするが,グスク,ヤマコ,レイにとって,これから前に進むためには,オンちゃんについて決着をつけることが必要だったんでしょうね.

目次
第一部 リュウキュウの青 1952-1954
第二部 悪霊の踊るシマ 1958-1963
第三部 センカアギヤーの帰還 1965-1972

 今また沖縄の問題を考えてみたい.沖縄はまだウチナンチュの手には取り戻せていないようです.


喫驚なグールドの演奏の秘密とは『グレン・グールド』吉田秀和.河出文庫

『グレン・グールド』吉田秀和. 河出文庫.


 グールドに惹かれた吉田さん.グールドの演奏の秘密にせまるグールド論集.

 グールドになぜ魅せられるのか.演奏の録音と楽譜と比べながら,あの極度に遅いあるいは早い演奏速度を取るのはなぜなのか.あのスタッカートはなぜ? 吉田さんが熱量をもって論考を語ります.

 私はグールドは何か妙な演奏をするピアニストだと思っていました. 坂本龍一の『schola vol.1 J.S.Bach』のゴルトベルグ変奏曲でグールドを取り上げてました.そこでグールドに興味を持ちました.スコラでの坂本の言と本書の吉田さんの話には通底するグールドがあるようです.
 それによるとグールドはバッハの曲などの多声的な構造をわかりやすく弾いているようだと.変わって聞こえるが,奇をてらっているわけではないと.

 本書を読むと,取り上げられているグールドの演奏を聴きたくなります.今はサブスクリプトサービスやYouTubeなどで聞いて確認できるのが良いですね.私は グールドのセットCDを購入してしまいました(まだ聴ききれていません) f^^;
 聴きながら本書を再読するのが楽しみです.

目次 :
名演奏家たち II
グールド讃
グルードの『ゴルトベルク変奏曲』によせて
グールド―外界が完全に消滅した人間の“のびやか”な演奏
モーツァルトを求めて
ベートーヴェン
スクリャービンをきく―アシュケナージ/ストイアマン/グールド
テレビで見たグレン・グールドの演奏
グレン・グールドを見る
うちなるものへ―グルードの死
グールド没後二十年
グールド再考
演奏二態
演奏の「違い」について
私はグールドのような人はほかに知らない
グレン・グールドとは何か
グレン・グールドを語る 聞き手=壱岐邦雄

実は実話,感動ご当地アイドル創設譚『スマイル アンド ゴー!』五十嵐貴久

『スマイル アンド ゴー!』五十嵐 貴久. 幻冬舎文庫.


 311の被災地気仙沼のご当地アイドルグループ KJH の誕生物語.

 主人公は,被災地盛り上げアイドルグループの強引な創設に突き進むおっさんサトケン,被災後に仮設住宅に引き籠るようになった女子高生詩織,夢破れたデスメタルな写真屋のリューの三人.お話は詩織とリューの語りで進みます.

 五十嵐さんには,『リカ』をはじめとするサイコホラーの作品,『交渉人』などのミステリーの作品,『パパとムスメの7日間』などの設定シミュレーションドラマの作品,『安政五年の大脱走』などの痛快時代劇の作品,『サウンド・オブ・サイレンス』などの青春爽快小説の作品があります.

 この『スマイル アンド ゴー!』は青春爽快小説の系譜に属するお話.しかし本作はいつもの青春爽快小説とはちょっと違っています.本篇の後には異例の『あとがき』があり,それによると気仙沼のご当地アイドルグループ『SCK GIRLS』とその関係者がモデルとのこと.個々のエピソードはフィクションですがネットでのバッシングや突然の死など起きた出来事はほぼ実話だったんです.
 ちなみに作中のKJHのデビュー曲『ありがとうの言葉』も実在します. SCK GIRLS のファーストシングル『ありがとうの言葉』です.

 お手軽青春爽快小説かと思いきや,なんとあんな展開になるとは! サトケンさんの行動の訳が… お勧めです.


令和最初の東京バンドワゴン読了巻『アンド・アイ・ラブ・ハー』かんなちゃん大活躍

『アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン』小路 幸也,集英社.


 平成最後の『東京バンドワゴン』 奥付が 2019年4月30日 第1刷 になっています.小路幸也の人気シリーズ『東京バンドワゴン』の令和最初の読了巻きが,この『アンド・アイ・ラブ・ハー』 になりました.

 秋,冬,春,夏の4章から成っています.いつものようにサチおばあちゃんが語ります.かんなちゃん大活躍の巻.

秋)ペンもカメラも相身互い
 東京バンドワゴンに写真を掲げたこともある水上君の後を付け狙う人.<<如何なる事でも万事解決>>で『東京バンドワゴン』の仲間たちが動きます.
冬)孫にも一緒の花道か
 何やらきな臭い方々が『東京バンドワゴン』にやってきて….大女優にして東京バンドワゴンの青君の母でもある池沢由梨枝さんが決意します.一方悲しい別れも.
春)桜咲かすかその道の
 古書で『東京バンドワゴン』とトラブルのあった教授が米国のネットで何やら動いているらしいが… 研人君は高校生のバンドメンバーの進路について悩む.
夏)アンド・アイ・ラブ・ハー
 女医を引退して『東京バンドワゴン』に帰ってきていたかずみさんが廊下をぶつぶつ呟きながら歩くように.ボケたのか…


『鹿の王 水底の橋』今回は恋の行方と法廷劇!?

『鹿の王 水底の橋』上橋 菜穂子 (著), KADOKAWA.


前作鹿の王の続編ではありますが,本作だけで読んでも面白い.事実私は前作をすっかり忘れていたけれど大丈夫でした.

 ファンタジー世界の医療関連冒険譚の前作でしたが,今作も医療冒険譚.次期代皇帝と宮廷祭司医長の座をかけた争いに,ホッサルとミラルが巻き込まれます.

 この世界の医療技術,オタワル医術,清心教医術,花部地方の医術の三つの医術の関連が,政治的な争いに直接的に関わってきます.人の命と医療との関わり方について問題提起されます.そしてミラルは決断する.

 前作ファンにおすすめ.本作の方が分量が少なく物語の舞台も限られているので読みやすいので,もしかしたら本書からはいって前作を読むのもありかも.


熊本城のあの人が蘇る!?梶尾 真治『黄泉がえり again』

『黄泉がえり again』 梶尾 真治.新潮文庫


 前作『黄泉がえり』は,2000年に熊本地方に起こった黄泉がえり現象によって翻弄される家族たちの感動的なお話.黄泉がえり現象は熊本を襲う地震を身を呈して防いだ.現実にはその後,2016年に熊本を襲った二度の激震.さらに2017年7月九州北部豪雨で天変地異が九州を襲う.

 本作は,黄泉がえり現象を経験した後に,2016年の熊本地震を受け復興に注力する熊本地方が舞台.今度はいろいろトンデモナイものまで蘇る.実際の復興と重なる世界のため,今回はエンタメ色強めに楽しむ趣向になっている.

 前作を知らなくても大体わかるようになっているので,本作から読んでも大丈夫.前作を知っていれば共通する登場人物もいるのでより楽しめます.

 熊本地震後の今,前作を読んだら,また違った趣があるんじゃないかと読み直すのもあり.

 地球規模の危機が迫っている!? 次回作も楽しみだ.

今回は日本人形の『鞠子さん』が主人公!? 『放課後地球防衛軍2』笹本祐一

『放課後地球防衛軍2 ゴースト・コンタクト』 笹本祐一 (著), 白井鋭利 (イラスト) .ハヤカワ文庫JA.


 町の漁協の裏組織が地球防衛軍だった田舎町の高校生が,宇宙から降ってきた謎の転校生に出会ったことから地球防衛軍に関わっていくことになり… という前作.待ちに待った第二巻が本書『放課後地球防衛軍2 ゴースト・コンタクト』です.軽いノリの笹本ラノベですから,どんどん次が読みたくなるんですよね.

 表紙の絵にだまされたっ! 転校生の悠美が表紙,第1巻と代わり映えしない.と思いきや,ちゃんと今回の主人公の『鞠子人形』が表紙に居る.そう悠美の左足が切れているにもかかわらず,鞠子さんはほぼ全身が載っていたのです.「鞠子さんそこに居たのかっ!」

 宇宙人の遺物倉庫からついてきた鞠子さんをめぐり,高校の天文部の面々に電波研究部も加わりドタバタが始まります.想定外の異星人とのコミュニケーションへと進展.

 鞠子さん,これからも『天文部 鞠子』で天文部員として活躍してくれると良いですね.もう次が読みたくなってくる.


YMOを聞く時のおともに『YMOのONGAKU』藤井丈司

『YMOのONGAKU』藤井丈司.アルテスパブリッシング


 2019 3/14木新宿文化センターで行われたYMC(イエロー・マジック・チルドレン)ライブでの先行販売で入手したのが,本書『YMOのONGAKU』.

 本書はYMOのアシスタントだった藤井丈司が,YMOのアルバムのマルチ・テープのトラックシートをそのアルバムの関係者ともに読み解いていくというトークイベントの対談を元に構成されています.

 やっぱり面白いのは,各トラックシートからその楽曲の細かな所を掘り起こしたりコード進行分析など深い話.たとえばファーストアルバムの日本版とUS版の『ファイアークラッカー』の違いで,日本版はぐるぐる回るのにUS版は左右に振るだけなのは,3Dエンコーダ(QSエンコーダ)というエフェクターが,ロスでミックスダウンしたキャピトル・レコードのスタジオになかったためらしい.ってことで,二枚を聞き直すと確かにそうです.

 本書を読むと,今まで気が付いていなかった音が聞こえてくるのが楽しいですね.

 YMOのオリジナル・アルバム,『イエロー・マジック・オーケストラ』,『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』『BGM』『テクノデリック』『浮気なぼくら』、『テクノドン』について書かれています.

 まずファーストアルバムの『イエロー・マジック・オーケストラ』の章をアルバムを聴きながら読む.そして各アルバムの話の間に,プロローグのYMO結成前の状況を少しずつ読むのがお勧め.

『テクノドン』は久日ぶりに聞いたなぁ.本書を読みながらだと各楽曲の意味がやっと分かってきた.

・プロローグ
これはYMO結成前の三人の音楽状況

・『イエロー・マジック・オーケストラ』 対談ゲスト 松武秀樹
・『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』対談ゲスト 松武秀樹
・『BGM』対談ゲスト 飯尾芳史(アルファレコードの録音エンジニア)
・『テクノデリック』対談ゲスト 飯尾芳史(アルファレコードの録音エンジニア)
・『浮気なぼくら』対談ゲスト 砂原良徳(カルトQ YMO編優勝者,METAFIVEメンバー)
・『テクノドン』対談ゲスト 木本ヤスオ(シンセ・プログラマー,細野晴臣『源氏物語』~『テクノドン』)

・エピローグ



最果タヒ×祖父江慎が面白い『ことばをながめる、ことばとあるく』

『ことばをながめる、ことばとあるく ―詩と歌のある風景 (本と美術の展覧会 vol.2)』 図録
  太田市美術館・図書館 (著), 最果 タヒ (著), 佐々木 俊 (著), 祖父江 慎 (著), &その他


 太田市美術館の<本と美術の展覧会vol.2>『ことばをながめる、ことばとあるく ―詩と歌のある風景』(2018年8月7日から10月21日)の図録です.

 私は残念ながら太田市美術館の展覧会には行けなかったんですが,横浜美術館での最果タヒさんの『New Artist Picks 氷になる直前の、氷点下の水は、 蝶になる直前の、さなぎの中は、 詩になる直前の、横浜美術館は。 ―― 最果タヒ 詩の展示』展を見て,詩の展示の前に行われた展示について書かれている本書を読んでみました.

 最果ファンにお勧め.詩とその言葉を超えた表現に興味のある方にも.

 『ことばをながめる、ことばとあるく』は,
・詩×グラフィック
・詩×絵画
・短歌×イラストレーション
から成っています.

 詩×グラフィックは,最果タヒさんの詩を三人のグラフィック・デザイナー(祖父江慎,佐々木俊,服部一成)が,グラフィック作品として制作し展示するというもの.
 佐々木さんの作品は詩とグラフィックを看板として,服部さんの作品は図形の中に詩を流し込んだもの,祖父江さんの作品は展示会場の壁や床を大胆に使うもの.
 テキストとして最果タヒさんの『展示のあとがき』があり,最果氏が詩を書いた瞬間のその前の状態に言葉を巻き戻すとのこと.これは,横浜美術館のギャラリー1のモビールの詩の断片を読んでいる状態そのものですね.
 読みどころとしては,グラフィック・デザイナー三氏(祖父江慎,佐々木俊,服部一成)の鼎談.面白いのは祖父江さんの展示冒頭の狭い廊下に貼られる『遠眼鏡の詩』の8枚.二度ほど傾けて廊下を上り坂のように錯覚させるようにしたとのこと.そのほかにも祖父江さんの作品は色々裏を仕込んであるんですね.

・詩×絵画は,管啓次郎氏の手書きの詩と,その詩を読み感じたことを佐々木愛氏が絵に描いたもの.

詩人二名,最果タヒさんと管啓次郎氏の対談が載っています.

 短歌×イラストレーションは,惣田沙希氏のイラストレーションの壁画の中に 歌人(大槻三好と大槻松枝)の歌を置いたもの.歌人の歌った風景を,惣田が描き出す.

詩×グラフィックや短歌×イラストレーションはぜひ展示会場に行ってみたかったなぁ.


実測値(帯付き)746g の大著『全ロック史』西崎 憲

『全ロック史』西崎 憲.人文書院 (2019/2/21)


ロックミュージックの歴史の全貌を伝えるのが本書.好きなアーティスト/ロックのジャンルが歴史的にどのような位置付けにあるのか,その周辺の音楽を知ることができ興味の幅も広がりますね.

ロック全史ってことで実測値(帯付き)746g の大著です.

ロックは,嗜好品で,あるバンド/ジャンルは好きでよく知っているけれど,他のことは以外と知らないって方も多いでしょう.私もプログレが好きだけど他はどうもね.そんな人にも本書は合っていると思います.

また最近は動画サイトやサブスクリプション配信サービスなどで,楽曲にも容易にアクセスでき聴くことができ,本書に出てくる楽曲を確認しながら読み進めることもできるので楽しいですね.
たとえば本書に出てくる最初の楽曲は,ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「Rock Around The Clock」.なんだそれ?と思ってググると,そう,あの「ワンツースリー オクロック,フォー オクロック,ロック!…」って曲です(へ~曲はよく聴くけどアーティストと楽曲名は知らなかった)と.

本書の特徴は,全史ということで,意図的に淡々とジャンルの変遷にそって語られていくことです.ロック本は今までにも色々あって,例えば市川哲史の『どうして プログレを 好きになって しまったんだろう』など面白い本もあります.それらのロック本の多くは,文字どうりの楽屋裏の話や,ロック本の著者だけが知っているここだけの話や,都市伝説的な英雄談などで彩られています.一方本書は序章「はじめに」によると,出来るだけ客観性を念頭において歴史書的に書かれているとのこと.

もうひとつの特徴は,ロックの歌詞の内容について全般的に言及していることです.音楽家で,小説家,歌人でもある西崎さんらしい見方ですね.

次はぜひ西崎さんの好きな楽曲の翻訳歌集を出して欲しいところ.権利処理が大変そうだけど期待.


二度読みが楽しい!森見登美彦『熱帯』

『熱帯』 森見 登美彦.文藝春秋.


 読んでいるといつの間にか紛失してしまう幻の本『熱帯』の謎を追い求めるが…

 その本は千一夜物語に関係があるらしく,不思議なことや色々な方の語りが入り,語りのなかに語りが入ったり,物語の中にノートが現れ,ノートの中に物語が入ったりと,『熱帯』の追跡も混沌としてくる.

 これは二度読み推奨ですね.最初読んだ時と,からくりがわかってから読んだ時で,二度美味しく読めます.

・最初は,細かいところを気にせずに,京都篇と南の島篇のむちゃくちゃな話で翻弄されるのを楽しむが吉.四畳半や宵山万華鏡のように.
・二度目は,本書の物語の持つ構造の謎を楽しんで読書すると良いでしょう.


 本書は幻の本『熱帯』の謎を追い求める京都篇と,『熱帯』に書かれている世界の南の島篇に分けることができます.『満月の魔女』と呼ばれる月のような球体は,ペンギン・ハイウェイの『海』を想起させます.同じものなのかもしれません.


 実は二度目に読んでみると(以下ネタバレ),あれだけ混沌としていた本書の構造が,実は結構単純なものであることが分かります.
 本書の中身はほとんど20代半ばの女性(白石さん)の(本書の最後まで続く)語りなんですね(p.40).彼女の語りの中で,池内氏の黒いノートが出てきて,彼女がそのノートに出てきた話をさらに読んでいく,するとそのノートには,池内氏の京都探索篇の話と池内氏の創作話の南の島篇が出てくる.さらに南の島篇の最後は現代に繋がりそのノートの中の白石さんが,森見版『熱帯』について語り始めます.
 つまり,本書自体が,本書の中に出てくる創作中の人物の語りであると明かされ,各話はその最後が記述されることなく,本書全体を飲み込むことになります.
(森見版『熱帯』
   (作中森見氏の語り
      (白石さんの語り
          東京篇
          (池内さんのノート
             京都篇
             (池内さんの創作
                南の島篇
                (20年後の佐山の語り
                    白石さんが森見版を語る=>最初へ
 

画像


この中にさらに,
・白石さんと千夜さんの『砂漠の宮殿』の想像
・池内氏の千夜から聞いた彼女の過去の話
・絵『満月の魔女』の前での白昼夢
・今西氏が語る,カードボックスと,永瀬栄造氏の文官屯での『満月の魔女』の光球の話.
・マキさんの話
などが挟み込まれるので,読み手が迷子になっちゃうのでしょうね.

 この白石さんが語った,池内さんのノートの内容の話の最後に出てくる白石さんが,本書について語る.という構造なので,白石さんが千一夜物語のシャハラザード,創造の魔女『満月の魔女』,という扱いなんでしょう.

 私が『南の島篇』と呼称しているのは,アニメ『ふしぎの海のナディア』(ノーチラス号やネモ船長が出てくる)で南の島篇と呼ばれている私の好きな部分と同じように感じたからです.今までの話は棚に上げ南の島でめちゃくちゃな話になるのが面白いんですよ.



吉田篤弘『月とコーヒー』イッキ読みせずにあえて毎晩一話づつ読むが吉

『月とコーヒー』吉田篤弘 徳間書店

 クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘さんのショートショート集.初出は食楽webで2016年から2018年に連載されたもの.

 これは気楽に読めて楽しいですね.ショートショートが二十四篇収められています.第一話『甘くないケーキ』は祖母の遺品の書きかけの小説を読む青年と,喫茶店の女性店主の出会いのお話.

 小ぶり(16.4 x 11.8 x 3 cm)で厚いショートショートというと,北野勇作さんの『じわじわ気になる(ほぼ)100字小説』シリーズを想起させます.これは両方とも各短篇を読んだ後「そのあとどうなるの?」とじわじわ気になり,色々想像してしまうからでしょう.

 本書のあとがきによると,「一日の終わりの寝なしに読んでいただく短いお話を書きました。」とあります.っというわけで,イッキ読みせずに,あえて毎晩一話づつ読んでいくことにしたいと思います.

目次

甘くないケーキ
映写技師の夕食
黒豆を数える二人の男
アーノルドのいない夜
白い星と眠る人の彫刻
隣のごちそう
ジョーカーのサンドイッチ
青いインク
ミヤンザワ・キートン
カマンザの朝食
バナナ会議
世界の果てのコンランドリー
鳴らないオルゴール
空から落ちてきた男
美しい星に還る人
青いインクの話のつづき
熊の父親
つづきはまた明日
三人の年老いた泥棒
冬の少年
セーターの袖の小さな穴
二階の虎の絵
マーちゃんの眼鏡
ヒイラギの青空

あとがき


続きが読みたいぞ!608ページ 実測値551グラム(帯付き)飛浩隆『零號琴』

『零號琴』飛 浩隆.早川書房

 特殊楽器奏者のトロムボノクが相棒シェリュバンと,惑星『美縟』の500年祭の歴史劇で使われる特殊楽器『美玉鐘』の演奏の手伝いに駆り出されるが…

 ゴレンジャ合身,フリギヤが鏡の魔女と戦い,「イー,イー」と叫ぶ人たち,銀色の巨人シュワっちが光線をっ! 様々なSF,アニメ,特撮などをないまぜにした,読者サービスでニヤッとさせる場面も多い(たとえば戦闘ダンスはラスト・エグザイルを想起)エンタメ度が高いお話です.

 キャラの立った登場人物たちによるアニメ的なエンタメSFです.なのでまずは,固有名詞への難読漢字多用によって読みづらくなっていますが,イッキ読みしてから気になるところを戻って読むが吉.

 本書をイッキ読みする場合に引っかかる難読固有名詞は,
梦卑 むひ:梦は夢
五聯社 ごれんじゃ:美縟の五人の神『五聯』が乗り込む巨人
㤀藍 ぼうらん:㤀は忘
などなど.

 本書『零號琴』には二つの種類の謎が出てきます.ひとつはトロムボノク,シェリュバン,埋蔵楽器,ウーデルス,行ってしまった人たち等の轍世界の謎.もうひとつは居住化惑星『美縟(びじょく)』に固有の謎.そして本書では美縟の謎が解かれます.

 本巻はトロムボノクとシェリュバンの冒険譚の序章にすぎません.轍(わだち)世界シリーズの第1巻といったところ.この二人の冒険が続き,特殊楽器ウーデルス(ウーデルス生まれ)の謎,行ってしまった人たちの謎が最後に解かれる.はず.

 本書の読後感は感覚的には2時間の劇場アニメ映画を観たような感じ.今後TVシリーズで二人の冒険譚が語られ,最後にまた劇場アニメで最終話を迎えるっていうイメージ.

 というわけでこれから,トロムボノクを主人公としたシリーズで,トロムボノクとシェリュバンの謎が徐々に深まる/解かれる冒険か書かれた連作中篇/短篇がほしい.そして最後に『零號琴』以上の分量の納得の最終巻が読みたい.


実測値(帯付き)746g の大著『全ロック史』西崎 憲

『全ロック史』西崎 憲.人文書院 (2019/2/21)


ロックミュージックの歴史の全貌を伝えるのが本書.好きなアーティスト/ロックのジャンルが歴史的にどのような位置付けにあるのか,その周辺の音楽を知ることができ興味の幅も広がりますね.

ロック全史ってことで実測値(帯付き)746g の大著です.

ロックは,嗜好品で,あるバンド/ジャンルは好きでよく知っているけれど,他のことは以外と知らないって方も多いでしょう.私もプログレが好きだけど他はどうもね.そんな人にも本書は合っていると思います.

また最近は動画サイトやサブスクリプション配信サービスなどで,楽曲にも容易にアクセスでき聴くことができ,本書に出てくる楽曲を確認しながら読み進めることもできるので楽しいですね.
たとえば本書に出てくる最初の楽曲は,ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「Rock Around The Clock」.なんだそれ?と思ってググると,そう,あの「ワンツースリー オクロック,フォー オクロック,ロック!…」って曲です(へ~曲はよく聴くけどアーティストと楽曲名は知らなかった)と.

本書の特徴は,全史ということで,意図的に淡々とジャンルの変遷にそって語られていくことです.ロック本は今までにも色々あって,例えば市川哲史の『どうして プログレを 好きになって しまったんだろう』など面白い本もあります.それらのロック本の多くは,文字どうりの楽屋裏の話や,ロック本の著者だけが知っているここだけの話や,都市伝説的な英雄談などで彩られています.一方本書は序章「はじめに」によると,出来るだけ客観性を念頭において歴史書的に書かれているとのこと.

もうひとつの特徴は,ロックの歌詞の内容について全般的に言及していることです.音楽家で,小説家,歌人でもある西崎さんらしい見方ですね.

次はぜひ西崎さんの好きな楽曲の翻訳歌集を出して欲しいところ.権利処理が大変そうだけど期待.


やっぱり良いね.『ペンギン・ハイウェイ』BDを鑑賞

『ペンギン・ハイウェイ』
発売元:東宝/フジテレビジョン 販売元:東宝 /(C)2018森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会


 森見登美彦の日本SF大賞受賞小説『ペンギン・ハイウェイ』のアニメ映画化がこれ.2018年のアニメ映画の中では大御所の作品を出し抜いて,この『ペンギン・ハイウェイ』が出色の出来でした.

 日頃身の回りのことを研究している小学四年のアオヤマ君の街に突如ペンギンが現れウチダ君と調査し始める.歯科医院のお姉さんとペンギンに関係があるらしい.さらにクラスのハマモトさんが『海』と呼ぶ怪現象を共に観測し始めるが… 森見さんですが舞台は京都ではなく郊外の新興住宅地.

 もとの小説自体が面白いです.映画の監督はあのジェットコースター的動画の『フミコの告白』の石田祐康で,初長編作品.原作を映画の尺内に構成してますが,夏休み映画としては大成功でしょう.

 主人公のアオヤマ君がこましゃくれたいい味出している.声も上手くハマっていますね.劇場で観た時はアオヤマ君と同世代の子役が声を当てているのかと思ったほどですが,実は女優(北香那)さんでした.

 映画でも原作と同じく,アオヤマ君称する虫歯の「スタニスワフ症候群」のエピソードが最初にあるところ.スタニスワフ・レムはあのソラリス(ソラリスの陽のもとに/惑星ソラリス)の作者です.ハマモトさんもアレを「海」と呼ぶなど,ソラリスを読んでいることを匂わせ,そこにもアオヤマ君はシンパシイを感じたのかもね.これが「海」を観測し観賞していく後半の話へと繋がっていきます.

 BDの良いところは,アオヤマ君のノートなど気になった所を映像を止めて確認できるところですね.コレクターズエディションでは,小さいけれどこのアオヤマ君のノートが付いてくるが嬉しいところ.


再読したくなる須藤真澄ー『幻燈機じいさん』

『幻燈機じいさん』シリーズ
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 時々本棚から取り出して再読してしまう本ってあります.須藤真澄の一連の漫画もそれ.ちょっと奇妙なことが起きるお話の短篇集.お勧めです.

 その中に『幻燈機じいさん』のシリーズがあります.庭先案内(1)~庭先案内(6)+水金地火木土と12冊に渡って,綿綿と続いてきた人気連作短篇シリーズです.海をVRのように映し出す幻燈機を持って,色々な村を巡るおじいさん(顔文字では,f悲;のようなおじいさん)のお話です.巡る先は海をみたことない子供達のいる異国の村々.

 私は,この『幻燈機じいさん』シリーズが完結した『土筆柑の空』のあとがきを読むまで,長く読んでいながら実在の場所を巡っていたことに気が付いていませんでした.このあとがきによると,巡る先は,
幻燈機:ブータンの村(庭先案内1)
幻燈機2:ベトナムの村(庭先案内1)
幻燈機3:ネパールの首都(庭先案内2)
幻燈機4:ネパールの高山の村(庭先案内3)
幻燈機5:ネパールの首都(庭先案内4)
幻燈機6:モンゴルの草原(庭先案内5)
幻燈機7:ウイグルの村(庭先案内6)
幻燈機0 幻の海:インド南西海岸/じいさんの故郷(水蜻蛉の庭)
幻燈機8:ミャンマーの村(水蜻蛉の庭)
幻燈機9:タイの小さな町(金魚草の池)
幻燈機10:カンボジアの廃村(地図苔の森)
幻燈機11:ブータンの村~首都(花輪花の丘)
幻燈機12:ラオスの村(木珊瑚の島)
幻燈機 終:インド南西海岸(土筆柑の空)
とのこと.風景や街並みにその土地柄が出てます.

これらの地は須藤さんが実際に見て回った土地のようです.すごい!